目次
3行要約
- 2026年9月18日、アメリカ・デンマーク・グリーンランドの3者がグリーンランドの安全保障をめぐる協定で合意した。
- 主権はデンマークに残る一方、安全保障と「その他すべてのニーズ」についての恒久的な管理権をアメリカが握るという二重構造になっている。
- 及川幸久氏は「ノーコストでの実質的な領有」という見方を紹介しつつ、トランプ大統領の真の狙いはカナダにあるのではないかと指摘する。
詳細要約
何が合意されたのか
- トランプ大統領は以前からグリーンランドの購入を望み、デンマーク首相は「馬鹿げている、絶対に売らない」と拒否していた。数か月の水面下の交渉を経ての合意である。
- 発表はトランプ大統領のTruth Socialで行われ、ニューヨーク・ポストが犬ぞりに乗るトランプ氏を一面で報じた。
- 中心は「アメリカが安全保障およびその他すべてのニーズについて恒久的な管理権(permanent control)を持つ」という一文。
- 「その他すべてのニーズ」が資源開発やインフラ、外交のどこまで及ぶのかは、国連総会での署名文書が公開されるまで分からない。
主権と安全保障の権限を分ける二重構造
- デンマークとグリーンランド側は「主権は渡していない」と明言しており、これは事実。グリーンランドは引き続きデンマーク領である。
- 国際法上、主権(ソブリンティ)と防衛の権限(セキュリティ・コントロール)は別物として扱いうる。今回はその分離を使った。
- 土地の持ち主は変わらないが、防衛を決める権限は100%アメリカ側になる。
- グリーンランド住民の自治権は維持され、将来独立を選ぶ権利も残る。ただし独立後もアメリカの防衛関与が続くという点が異例である。
- 「領土を奪われた形にはしない」ことがデンマークにとってのレッドラインであり、その線は守られた。
1951年の防衛協定との違い
- 第二次大戦でナチス・ドイツに占領されたデンマークが解放された後、1951年に米デンマーク間でグリーンランド防衛協定が結ばれ、アメリカはすでに基地を持っていた。
- その意味では今回の合意は既存の枠組みの延長・強化にも見える。
- 決定的に違うのは、アメリカがグリーンランドやデンマークの承認なしに追加の軍事施設を自由に建設できる権限を得た点。
- さらに、中国などアメリカの敵対国がグリーンランドに基地を置くこと、鉱物資源・レアアースへのセンシティブな投資を行うことを、アメリカの承認なしにはできないと定めている。
日本の米軍基地との比較
- 日本の米軍基地も、土地の主権は日本にあるが基地内の運用はアメリカの権限で行われる。今回の構造はそれに近い。
- イメージとしては「グリーンランド全体が米軍基地になった」ようなもの。
- ただし決定的な違いは、敵対国の投資をアメリカが拒否できる点。日本では中国の投資をアメリカが拒めないが、グリーンランドでは拒否できる。
「ノーコスト」「終わりのない合意」という文言
- トランプ氏は発表文で「ノーコスト」を強調している。アメリカ側の費用負担は生じず、税金は一切使っていないという意味。
- 既存協定の延長にすぎないならノーコストは当たり前だが、あえて強調している点が注目される。
- さらに「終わりのない合意(永遠)」とも書かれている。
- 今年1月のニューヨーク・タイムズのインタビューで、トランプ氏は条約やリース契約では不十分で「所有こそが必要だ」と述べていた。
- 恒久的な支配を明記した今回の内容は、金も武力も使わず交渉だけで実質的な領有を勝ち取ったことを意味するのではないか、という見方が出ている。
もう一つの見方(見せかけの勝利)
- 主流メディアの見方は逆で、グリーンランドがアメリカの51番目の州になったわけではなく、結局は所有に至らなかったというもの。
- より厳しい見方では、中間選挙を前にイラン戦争の重圧がかかる中で、メンツを保つための見せかけの勝利にすぎないと評される。
- 及川氏は両方の見方を紹介したうえで、目先の政局とは別の狙いがあるのではないかと論を進める。
真の狙いはカナダか
- グリーンランド合意発表の約10日前、トランプ氏はTruth Socialに、グリーンランドとカナダが星条旗に塗られた画像を無言で投稿していた。
- アメリカがグリーンランドを欲しがった歴史は19世紀にさかのぼる。1867年、ロシアからアラスカを購入した際、当時のロバート・ウォーカー財務長官はグリーンランドとアイスランドの購入も構想していた。
- ウォーカーの狙いはグリーンランドそのものではなく、カナダをアメリカに取り込むための布石だった。
- 同じ1867年、イギリスはアメリカへの対抗からカナダ連邦(自治領)を設立している。
- アラスカ購入で西側と南側を押さえ、そこにグリーンランドを加えれば、カナダを北と西から包囲できる。地理的・経済的圧力によってカナダ自らが合衆国入りを望むよう仕向ける、という戦略構想だった。
- 現在、カナダはEUに接近し、トランプ氏はEUへの関税や取引停止をちらつかせて圧力をかけている。
- 及川氏は、トランプ氏が同じ構想を持っており、今回のグリーンランド合意も本当の狙いはカナダなのではないかと結論づけている。
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