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ノーベル賞の抗寄生虫薬「イベルメクチン」に抗腫瘍効果 阪大
【産経新聞 デジタル 記事 2017年09月25日】
卵巣の表面の細胞にできる上皮性卵巣がんの新たな治療の標的になる遺伝子を大阪大学大学院医学系研究科の小玉美智子助教(産科学婦人科学)、小玉尚宏助教(消化器内科学)、木村正教授(産科学婦人科学)、とテキサス大学のナンシー・ジェンキンス教授らの研究グループが発見した。細胞の核内にタンパク質を運び込む「核輸送因子」というタンパク質の遺伝子(KPNB1)で、その働きを抑制すると、がん細胞の細胞死などを起こすという抗腫瘍効果があることを明らかにした。さらに、この遺伝子の抑制には、ノーベル医学・生理学賞を受賞した大村智・北里大学特別栄誉教授が発見した「エバーメクチン」から開発された抗寄生虫薬「イベルメクチン」が有効で、腫瘍の縮小などの効果を高める可能性があることをつきとめた。この成果は「米国科学アカデミー紀要」に掲載された。
上皮性卵巣がんは、卵巣がんの9割を占め、見つかったときにはすでに進行しているケースが多いことから、手術でがん病巣を切除したり、薬剤による化学療法を行ったりしても、後に再発などする予後不良になるケースがある。このため、がんの分裂・増殖に関わる遺伝子や、遺伝子の変異を調べ、これを標的に新たな治療薬開発に結びつける研究が世界中で行われている。
こうしたことから、研究グループは、マウスにヒトの上皮性卵巣がん細胞を投与し、体内にできたヒトのがん細胞内で働く数千-数万の遺伝子それぞれについて、腫瘍の形成に関わるかどうかを調べた。遺伝子の働きを抑制したり、破壊したりする実験で、腫瘍ができなくなれば、その遺伝子の働きを止めることが創薬の標的になるわけだ。その結果、多数の候補遺伝子がみつかったが、その中で、特に強い腫瘍形成の阻害作用を示したのが遺伝子KPNB1の働きを抑制したときで、がん細胞では起こらないはずの細胞死や細胞分裂の停止が誘導されていた。また、このがんの患者のデータを解析すると、KPNB1の発現が高い症例では、治療後の経過が悪化しており、新たな治療の標的になる遺伝子である可能性が示された。
さらに、研究グループは「イベルメクチン」がKPNB1の働きを抑制して、抗腫瘍効果があることを発見。現在の上皮性卵巣がんの標準治療薬の一つで、がん細胞の細胞分裂を抑える「パクリタキセル」と併用すれば、効果が増強されることを突き止めた(図参照)。臨床に使うには、詳細なメカニズムの解明や副作用の有無など研究の余地があるが、小玉美智子助教は「抗寄生虫薬として広く知られるイベルメクチンに、抗がんという新たな薬理作用がみつかり、新規の治療戦略に加わる可能性がでてきました。今回、見つかった治療標的遺伝子とともに、創薬化が加速され、患者の予後の改善に貢献することを期待しています」と話している。